わたしの記憶が確かならば、あれは僕が5歳の頃。
バターを塗ったトーストの美味しさに目覚めたのは。
こんがりとふっくらと焼いた食パンの上で溶けかかったバターはすごく旨い。
薄く塗っただけでこんなに美味しいのだから、バターをそのまま食べたら……。
数日後、母親が買い物に出かけた隙に、冷蔵庫からバターの箱を取り出し、台所の片隅に隠れるように座り込んで、バターの塊をおそるおそる齧りはじめました。
口の中で溶けながら広がる濃厚な甘みとコク。
幸福感と罪悪感が入り混じった濃厚な味わい……。
当時はそんな難しいことは考えず、ただただ美味しいなぁと感じていただけでしょうが。
東海林さだお氏が「バター醤油かけごはん讃」というエッセイで「バターはたっぷし。ちょっぴりとたっぷしではまるで美味しさが違う」と執筆されていたように、バターはたっぷりが旨い。
昔も今も、贅沢感のある食材ですが、だからこそ、味わいがよりリッチに感じるのでしょうね。
実際、二口三口ほど齧ったところで十分満足して(本当はちょっと怖くなって)、食べるのをやめて冷蔵庫に戻しました。
箱から飛び出したまま、断面に小さな歯型がついたバターを見つけた母親には、もちろんすごく怒られたわけです。
どうやらストレートに味わおうとした5歳児の実体験は、ちょっと無謀な冒険だったかもしれません。
あれから40年近くたった今、もちろんそのまま齧ったりはしません。
その時の免罪符というわけではありませんが、今では少しは大人の味わい方ができるようになったようにも思えます。
さて、今日はどんなバターの味わい方を楽しみましょうか。